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めしまつま

飯待つ間

正岡 子規

正岡子規『飯待つ間』。同一底本的分册已合并为一书。收入:飯待つ間、犬、画、句合の月、九月十四日の朝、くだもの、ランプの影、熊手と提灯、徒歩旅行を読む、病牀苦語、車上の春光、煩悶、初夢、夢、病、墓、酒、権助の恋、恋。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,525 字 · 126 页

青空文庫

自分も非常に嬉しかったから、そろそろと甲板へ出た。甲板は人だらけだ。前には九州の青い山が手の届くほど近くにある。その山の緑が美しいと来たら、今まで兀山ばっかり見て居た目には、日本の山は緑青で塗ったのかと思われた。ここで検疫があるのでこの夜は碇泊した。その夜の話は皆上陸後の希望ばかりで、長く戦地に居た人は、早く日本の肴が喰いたい、早く日本の蒲団に寝たい、などといって居る。早く妻君の顔が見たいと思うて居るのも二人や三人はあるらしい。翌日は彦島へ上って風呂にはいった。着物も消毒してもろうた。この日は快晴であったが、山の色は奇麗なり、始めて白い砂の上を歩行いたので、自分は病気の事を忘れるほど愉快であった。愉快だ愉快だと、いわぬ者は一人もない。中にはこのきたない船にコレラのなかったのは不思議だ、などというて喜んで居る者もある。しかしこの喜びと愉快が三時間とは続かなんだ。三、四艘の艀は我々を載せて前後して本船に帰ってから、まだ幾分時もたたぬに、何やら船中に事が起ったらしい。甲板を走る靴の音は忙しくなって、人々の言い罵る声が聞える。あるいは誰かが誤って海中へ落ち込んだでもあろうか、など想像して居る中に、甲板から下りて来た人が、驚くべき報知を持ち来した。