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こうでん

香奠

豊島 与志雄

「時流」1925(大正14)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,989 字 · 46 页

青空文庫

国亡びて山河ありという言葉は、新らしい別な意味で、地方出の東京人の胸にぴたりときます。

話がわきにそれましたが、平田伍三郎がやって来た時私は、前申したような地方出の東京人の一人だったのです。その上私は大変貧乏でした。月々の月給で漸く生活してるきりで、家計の余裕なんか更になく、家も家族だけで一杯だし、夜具の余分も来客用の一組しかなく、友人の出入も可なりあるし、どの点から考えましても、たとい下宿料を貰っても、平田伍三郎を家に置くことは出来なかったのです。それに、特別の縁故でもあれば兎に角、彼と私とは九州の田舎の隣村に生れ合したというだけで、全くの他人じゃありませんか。

で私は、折角彼に好感を持ち初めたのに、変にそぐわない気持になって、苦笑を洩しながら云いました。

「随分無鉄砲だな、そんな相談はちっともなしに、いきなり僕のところへ飛び込んでくるなんて……。この通り、家じゃとても駄目ですよ。」

「それじゃあ、下宿屋でも探さにゃなりませんかしらん。」

「まあそれより外に……。だが、毎月五十円ずつ来るというのは確かでしょうね。」

「ええ確かです。もう千円ばかりアメリカから送って来とる筈ですから。