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おに

鬼

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年11月、1932(昭和7)年1月~2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,138 字 · 60 页

青空文庫

殿村は必要以上に高い声で物を云った。国枝氏ではない誰かもっと別の人に話しかけてでもいる様に。

国枝氏は益々面喰らって、

「何だか、君は鶴子さんを非難している様に聞えるが」

と反問した。

「非難だって? 非難どころか、あいつは人殺しなんだ。極悪非道の殺人鬼なんだ」

「エ、エ、すると……」

「そうだよ。山北鶴子は君が信じている様に被害者ではなくて加害者なんだ。殺されたのではなくて殺したのだ」

「誰を、誰を」

予審判事は、殿村の興奮につり込まれて、慌しく尋ねた。

「絹川雪子をさ」

「オイオイ、殿村君、君は何を云っているのだ。絹川雪子は、現に僕等の目の前に泣き伏ているじゃないか。だが、アア、それとも、若しや君は……」

「ハハハ……、分ったかい。ここにいるのは絹川雪子の仮面を冠った山北鶴子その人なんだ。鶴子は大宅君を熱愛していた。両親を責めて結婚をせき立てたのも鶴子だ。この人が大宅君の心を占めている絹川雪子の存在を、どんなに呪ったか、全く自分からそむき去った大宅君をどれ程恨んだか。想像に難くはない。そこでその二人に対して恐ろしい復讎を思い立ったのだ。恋の敵の雪子を殺し、その死骸に自分の着物を着せて、大宅君に殺人の嫌疑がかかる様に仕組んだのだ。