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おに
鬼
江戸川 乱歩
「キング」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年11月、1932(昭和7)年1月~2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,138 字 · 60 页
「畜生、畜生」
その形相にこちらはギョッとして、又も小石を拾って投げつける。それには犬共も敵し兼ねて、さも残り惜そうに逃げ去って行った。
そのあとへ、二人は大急ぎで駈けつけ、草を分けて覗いて見ると、草の根のジメジメした地面に、人間の形をした真赤なものが、黒髪を振り乱し、派出な銘仙の着物の前をはだけて、転がっていた。
二人が見た丈けでも六匹の大犬に喰い荒されているのだ。まだ生々しい死骸の、あばら骨が現われ、臓腑が飛び出し、顔面は跡かたもない赤はげになって、茶飲茶碗程もあるまんまるな目の玉が虚空を睨んでいたとて不思議はない。
殿村も大宅も、生れてから、こんな滑稽な、えたいの知れぬ、恐ろしいものを見たことがなかった。
犬の歯に荒されない部分の皮膚を見ると、よく肥っていて病人らしくはない。さき程犬の銜えて来た片腕を除いては、五体がチャンと揃っている所を見ると、轢死人でもないらしい。すると、六匹の野犬が健康な一人の女を喰い殺してしまったのであろうか。イヤイヤ、それは考えられないことだ。人間一人喰い殺される騒ぎを、いくらなんでも、すぐ近くの番小屋の仁兵衛爺さんが気付かぬ筈はない。