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ぎょげんき

魚玄機

森 鴎外

「中央公論」1915(大正4)年7月

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 9,866 字 · 20 页

青空文庫

玄機は「生ける秘密」のために、数年前から客を謝していた。然るに今は「死せる秘密」のために懼を懐いて、もし客を謝したら、緑翹の踪跡を尋ねるものが、観内に目を著けはすまいかと思った。そこで切に会見を求めるものがあると、強いて拒まぬことにした。

初夏の頃に、ある日二三人の客があった。その中の一人が涼を求めて観の背後に出ると、土を取った跡らしい穴の底に新しい土が填まっていて、その上に緑色に光る蠅が群がり集まっていた。その人はただなんとなく訝しく思って、深い思慮をも費さずに、これを自己の従者に語った。従者はまたこれを兄に語った。兄は府の衙卒を勤めているものである。この卒は数年前に、陳が払暁に咸宜観から出るのを認めたことがある。そこで奇貨措くべしとなして、玄機を脅して金を獲ようとしたが、玄機は笑って顧みなかった。卒はそれから玄機を怨んでいた。今弟の語を聞いて、小婢の失踪したのと、土穴に腥羶の気があるのとの間に、何等かの関係があるように思った。そして同班の卒数人と共に、を持って咸宜観に突入して、穴の底を掘った。緑翹の屍は一尺に足らぬ土の下に埋まっていたのである。