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くろいはたものがたり
黒い旗物語
小川 未明
「日本少年」1915(大正4)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,583 字 · 10 页
三
二人は闇のうちに抱き合っていましたが、まったくその影が見えなくなってしまいました。
その夜のことです。この辺りには近来なかったような暴風が吹き、波が荒れ狂ったのであります。そしてその暗い、すさまじい夜が明け放れたときには、二人の姿は、もはやその岬の上には見えなかったのであります。町の人々はその日もその翌日も、かの乞食二人の姿を見なかったので、なかにはどこへいってしまったろうなどと思ったものもありました。すると一日天気のいい日のこと、漁夫が沖へ出て網を下ろしますと、それに胡弓が一つひっかかってきました。それが、後になって、乞食の持っていた胡弓であることがわかりました。
三
その後というものは日増しに海が荒れて、沖の方が暗うございました。毎年冬になると、この港から出る船の航路がとだえます。
それで沖を見渡しても、一つの帆影も、また一条の煙の跡も見ることがなかったのです。ただ波頭が白く見えるかと思うと消えたりして、渺茫とした海原を幾百万の白いうさぎの群れが駆けまわっているように思われました。
毎夜のように町では戸を閉めてから火鉢やこたつに当たりながら、家内の人々がいろいろの話をしていますと、沖の方で遠鳴りのする海の声がものさびしく、もの怖ろしく、ものすさまじく聞こえてくるのでありました。