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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
楽の音は柱から柱へと反射していって、異様な和声を湧き起し、今にも、列拱から金色燦然たる聖服をつけた、司教助祭の一群が現われ出るような気がするのであった。が、法水にとってはこの空気が、問罪的な不気味なものとしか考えられなかった。
聖壇の前には半円形の演奏台が設えてあって、そこに、ドミニク僧団の黒と白の服装をした、四人の楽人が無我恍惚の境に入っていた。右端の、不細工な巨石としか見えないチェリスト、オットカール・レヴェズは、そこに半月形の髯でも欲しそうなフックラ膨んだ頬をしていて、体躯の割合には、小さな瓢箪形の頭が載っていた。彼はいかにも楽天家らしく、おまけに、チェロがギターほどにしか見えない。その次席が、ヴィオラ奏者のオリガ・クリヴォフ夫人であって、眉弓が高く眦が鋭く切れ、細い鉤形の鼻をしているところは、いかにも峻厳な相貌であった。聞くところによれば、彼女の技量はかの大独奏者、クルチスをも凌駕すると云われているが、それもあろうか演奏中の態度にも、傲岸な気魄と妙に気障な、誇張したところが窺われた。ところが、次のガリバルダ・セレナ夫人は、すべてが前者と対蹠的な観をなしていた。