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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

第五篇 第三の惨劇

一、犯人の名は、リュッツェン役の戦歿者中に

Salamander soll gluhen

(火精よ、燃えたけれ)

第五篇 第三の惨劇

一、犯人の名は、リュッツェン役の戦歿者中に

Salamander soll gluhen(火精よ、燃えたけれ)

黒死館を真黒な翼で覆うている眼に見えない悪鬼が、三度ファウスト博士を気取って五芒星呪文の一句を送って来た。それには、なにより熊城が、まず云いようのない侮辱を覚えずにはいられなかった。事実、残された四人の家族は熊城の部下によって、さながらゴート式甲冑のように、身動きも出来ぬほど装甲されているのである。それにもかかわらず、不敵きわまりない偏執狂的な実行を宣言して、ダンネベルグ夫人と易介に続く、三回目の惨劇を予告しているのではないか。そうなると、熊城の作り上げた人間の塁壁が、第一どうなってしまうのであろう。ほとんど犯罪の続行を不可能に思わせるほどの完璧な砦でさえも、犯人にとっては、わずか冷笑の塵にすぎないではないか。のみならず、そういう触れれば破滅を意味している、決定的な危険を冒してまでも敢行しようという、恐らく狂ったのでなければ意志に表わせぬような決慮を示しているのであるから、その不敵さに度胆を抜かれた形になってしまって、三人がしばらくの間声を奪われていたのも無理ではなかった。