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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
終止符に達する前に、法水は扉を閉じて側の召使に訊ねた。
「君は、いつもこうして立番しているのかね」
「いいえ、今日が初めてでございます」と召使自身も解せぬらしい面持だったが、その原因は何となく判ったような気がした。それから、三人がゆったりと歩んで行くうち、法水が口をきって、
「まさにあの扉が、地獄の門なんだよ」と呟いた。
「すると、その地獄は、扉の内か外かね」と検事が問い返すと、彼は大きく呼吸をしてから、すこぶる芝居がかった身振で云った。
「それが外なのさ。あの四人は、確かに怯えきっているんだ。もしあれが芝居でさえなければ、僕の想像と符合するところがある」
鎮魂楽の演奏は、階段を上りきった時に終った。そして、しばらくの間は何も聞えなかったけれども、それから三人が区劃扉を開いて、現場の室の前を通る、廊下の中に出た時だった。再び鐘鳴器が鳴りはじめて、今度はラッサスの讃詠を奏ではじめたのであった(ダビデの詩篇第九十一篇)。
夜はおどろくべきことあり
昼はとびきたる矢あり
幽暗にはあゆむ疫癘あり
日午にはそこなう激しき疾あり
されどなんじ畏ることあらじ
法水はそれを小声で口誦みながら、讃詠と同じ葬列のような速度で歩んでいたが、しかし、その音色は繰り返す一節ごとに衰えてゆき、それとともに、法水の顔にも憂色が加わっていった。