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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

今度は検事がいがみ掛った。「どうも君は、単純なものにも紆余曲折的な観察をするので困るよ」

「勿論明白なものさ。しかし、失神――だからこそなんだ。それが精神病理学の領域にあるものなら、古いペッパーの『類症鑑別』一冊だけで、ゆうに片づいてしまうぜ。無論癲癇でもヒステリー発作でもないよ。また、心神顛倒は表情で見当がつくし、類死や病的半睡や電気睡眠でもけっしてないのだ」と云って、法水はしばらく天井を仰向いていたが、やがて変化のない裏声で云った。

「ところが支倉君、失神が下等神経に伝わっても、そういう連中が各々勝手気儘な方向に動いている――それはいったい、どうしたってことなんだい。だから、僕はこういう信念も持たされてしまったのだ。例えば、鎧通しを握っていたことに、有利な説明が付いたとしてもだよ。そうなっても倍音の神秘が露かれない限りは、当然失神の原因に、自企的な疑いを挾まねばならない――とね。どうだい?」

「そりゃ神話だ。マアしばらく休んだ方がいいよ。君は大変疲れているんだ」と熊城はてんで受付けようとはしなかったが、法水はなおも夢見るような調子で続けた。

「そうだ熊城君、事実それは伝説に違いないのだ。