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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

だがただしだ。その方向を殺人事件の方に転換してもらおう」

法水は半ば微笑みながら、沈痛な調子で云い返した。

「ずさんだよ支倉君、君は検事のくせに、病理的心理の研鑽を疎かにしている。もしそうでなければ、『古代丁抹伝説集』などの史詩に現われている妖術精神や、その中に、黴毒性癲癇性の人物などがさかんに例証として引かれている――そのくらいの事は、当然憶えてなければならないはずだよ。ところでこのリュデスハイム譚は、別に引証されてはいないけれども、メールヒェンの『朦朧状態』を読むと、詩で唱われたオスワルドの喪神状態が、それには科学的に説明されている。その中の単純失神の章に、こうあるのだよ。失神が起ると、大脳作用が一方的に凝集するために、執意はたちまち消え失せてしまって、全身に浮揚感が起ってくる。しかし、一方小脳の作用が停止するのは、やや後であるために、その二つが力学的に作用し合って、無論わずかな間だけれども、全身に横波をうけたような動揺を起す――と云うのだ。ところが、伸子の身体は、その際に自然の法則を無視してしまって、かえって反対の方向に動いているのだよ」と伸子が腰を下していた廻転椅子を、クルッと仰向けにして、その廻転心棒を指差した。