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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

の原本、婆羅門音理字書「サンギータ・ラトナーカラ」、「グートルーン詩篇」サクソ・グラムマチクスの「丁抹史」等に眼を移した時だった。鎮子がようやく、鎮魂楽の原譜を携えて現われた。その譜本は、焦茶色に変色していて、かえって女王アンの透し刷が浮いて見え、歌詞はほとんど判らなかった。法水は手に取ると、さっそく最終の頁に眼を落したが、

「ハハア、古式の声音符記号で書いてあるな」と呟いただけで、無雑作に卓子の上に投げ出した。そして、鎮子に云った。「ところで久我さん、貴女は、この部分に何故弱音器符号を付けたものか、御承知ですか?」

「存じませんとも」鎮子は皮肉に笑った。「Con sordino には、弱音器を附けよ――以外の意味があるのでしょうか。それとも、Hom Fuge(人の子よ逃れ去れ)とでも」

法水は、鎮子の辛辣な嘲侮にもたじろがず、かえって声を励ませて云った。

「いや、かえって此の人を見よ――の方でしょうよ。これは、ワグネルの『パルシファル』を見よ――と云っているのですからね」

「パルシファル※(感嘆符疑問符、1-8-78)」鎮子は法水の奇言に面喰ったが、彼は再びその問題には触れず、別の問いを発した。