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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

算哲博士が乳呑児のうちに海外から連れて来て、四十余年の間館から外の空気を、一度も吸わせたことがないと云うのだからね」

「ウン、少数の批評家だけが、年一回の演奏会で顔を見ると云うじゃないか」

「そうなんだ。きっと薄気味悪い蝋色の皮膚をしているだろう」と法水も眼を据えて、「しかし、何故に博士が、あの四人に奇怪な生活を送らせたのだろうか、また、四人がどうしてそれに黙従していたのだろう。ところがね、日本の内地ではただそれを不思議がるのみのことで、いっこう突込んだ調査をした者がなかったのだが、偶然四人の出生地から身分まで調べ上げた好事家を、僕は合衆国で発見したのだ。恐らくこれが、あの四人に関する唯一の資料と云ってもいいだろうと思うよ」そして取り上げたのは、一九〇一年二月号の「ハートフォード福音伝道者」誌で、それが卓上に残った最後だった。「読んでみよう。著者はファロウという人で、教会音楽の部にある記述なんだが」

――所もあろうに日本において、純中世風の神秘楽人が現存しつつあるということは、恐らく稀中の奇とも云うべきであろう。音楽史を辿ってさえも、その昔シュヴェツィンゲンの城苑において、マンハイム選挙侯カアル・テオドルが、仮面をつけた六人の楽師を養成したという一事に尽きている。