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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

検事も怪訝そうに首を傾げて、呟いた。

「下剤(瀉痢塩が精製硫酸マグネシウムなればなり)、殺菌剤、睡眠薬だ。犯人は、この三つで何をしようとするんだろう?」

「いや、すぐに捨ててしまったはずだよ。ところが、嚥まされたのは吾々なんだ」と法水はここでもまた、彼が好んで悲劇的準備と呼ぶ奇言を弄ぼうとする。

「なに僕等が」と、熊城は魂消て叫んだ。

「そうさ、匿名批評には、毒殺的効果があると云うじゃないか」法水はグイと下唇を噛み締めたが、実に意表外な観察を述べた。「で、最初に硫酸マグネシウムだが、勿論内服すれば、下剤に違いない。しかし、それをモルヒネに混ぜて直腸注射をすると、爽快な朦朧睡眠を起すのだ。また、次の沃度フォルムには、嗜眠性の中毒を起す場合がある。それから、抱水クロラールになると、他の薬物ではとうてい睡れないような異常亢進の場合でも、またたく間に昏睡させることが出来るのだよ。だから、新しい犠牲者に必要どころの話じゃない。全然、犯人の嘲笑癖が生んだ産物にすぎないのだ。つまり、この三つのものには、僕等の困憊状態が諷刺されているのだよ」

眼に見えない幽鬼は、この室にも這い込んでいて、例により黄色い舌を出し横手を指して、嗤っているのだった。