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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
の前方に正面を張って並んでいる、二基の中世甲冑武者だった。いずれも手に旌旗の旆棒を握っていて、尖頭から垂れている二様の綴織が、画面の上方で密着していた。その右手のものは、クェーカー宗徒の服装をした英蘭土地主が所領地図を拡げ、手に図面用の英町尺を持っている構図であって、左手のものには、羅馬教会の弥撒が描かれてあった。その二つとも、上流家庭にはありきたりな、富貴と信仰の表徴にすぎないのであるから、恐らく法水は看過すると思いのほか、かえって召使を招き寄せて訊ねた。
「この甲冑武者は、いつもここにあるのかね」
「どういたしまして、昨夜からでございます。七時前には階段の両裾に置いてありましたものが、八時過ぎにはここまで飛び上っておりました。いったい、誰がいたしましたものか?」
「そうだろう。モンテスパン侯爵夫人のクラーニイ荘を見れば判る。階段の両裾に置くのが定法だからね」と法水はアッサリ頷いて、それから検事に、「支倉君、試しに持ち上げて見給え。どうだね、割合軽いだろう。勿論実用になるものじゃないさ。甲冑も、十六世紀以来のものは全然装飾物なんだよ。それも、路易朝に入ると肉彫の技巧が繊細になって、厚みが要求され、終いには、着ては歩けないほどの重さになってしまったものだ。