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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
そこで僕は、結論をよりいっそう確実にするために、今度はセレナ夫人から、昨夜この館にいた家族の数を引き出そうと試みました。ところが、僕の云ったゴットフリートの――吾今ただちに悪魔と一つになるを誰か妨げ得べき――に対して、セレナ夫人は、その次句の――短剣の刻印に吾身は慄え戦きぬ――で答えたのです。しかし、何故か sech(短剣)と云うと狼狽の色が現われて、しかも、短剣の刻印と、頭韻を響かせて一つの音節にして云うところを、sech と Stempel(刻印)の間に不必要な休止を置いたのですから、それ以下の韻律を混乱に陥れてしまったことは云うまでもありません、何故セレナ夫人は、そういう莫迦げた朗誦法を行ったのでしょうか。それはとりもなおさず、Sechs Tempel(六つの宮)と響くのを懼れたからです。その伝説詩の後半に現われて、『神の砦』(現在のメッツ附近)の領主の魔法でヴァルプルギス・ナハトの森林中に出現すると云う――その六つ目の神殿に入ると、入った人間の姿は再び見られないと云うのですからね。ですから、セレナ夫人が問わず語らずのうちに暗示した、その六番目の人物と云うのは……。