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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
仕掛になっていた。法水が横腹にある観音開きの扉を開くと、上部には廻転琴装置があって、その下が時計の機械室だった。しかし、その時扉の裏側に、はしなくも異様な細字の篆刻を発見したのである。すなわち、その右側の扉には……
――天正十四年五月十九日 (羅馬暦天主誕生以来一五八六年)西班牙王フェリペ二世より梯状琴とともにこれをうく。
また、左手の扉にも、次の文字が刻まれているのだった。
――天正十五年十一月二十七日 (羅馬暦天主誕生以来一五八七年)。ゴアの耶蘇会聖パウロ会堂において、聖フランシスコ・シャヴィエル上人の腸丸をうけ、それをこの遺物筐に収めて、童子の片腕となす。
それはまさしく、耶蘇会殉教史が滴らせた、鮮血の詩の一つであったろう。しかし、後段に至ると、そのシャヴィエル上人の腸丸が、重要な転回を勤めることになるのであるが、その時はただ、法水が悠久磅たるものに打たれたのみで、まるで巨大な掌にグイと握り竦められたかのような、一種名状の出来ぬ圧迫感を覚えたのであった。そして、しばらくその篆刻文を瞶めていたが、やがて、
「ああ、そうでしたね。確か上川島(広東省珠江の河口附近)で死んだシャヴィエル上人は、美しい屍蝋になっていたのでした。