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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

けれども、列席者中には、誰一人として室を出たものはなかったのである。そして、その直下に当る地上には、人体形成の理法を無視した二条の靴跡が印され、その合流点に、これもいかなる用途に供されたものか皆目見当のつかない、写真乾板の破片が散在していた。以上四つの謎は時間的には近接していても、それぞれ隔絶した性質を持っていて、とうてい集束し得べくもない。

七、ダンネベルグ事件

屍光と降矢木の紋章を刻んだ創紋――。まさに超絶的眺望である。しかも法水は、創紋の作られた時間が僅々一、二分にすぎぬと云う。さらに彼の説として、その二つの現象を、〇・五の青酸加里(ほとんど毒殺を不可能に思わせる程度の薬量)を含んだ洋橙が、被害者の口中に入り込むまでの道程に当てている。すなわち、不可能を可能とさせる意味の補強作用であり、その結果の発顕にほかならぬと推断している。しかし、彼の観察誤りなしとしても、それを証明し犯人を指摘することは、要するに神業ではないか。しかも、家族の動静には、一見の特記すべきものもなく、洋橙の出現した経路も全然不明である。

テレーズの弾条人形――。断末魔にダンネベルグ夫人は、この邪霊視されている算哲夫人の名を紙片にとどめた。