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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
「オヤオヤ熊城君、僕の方こそ、この事件が黒死館で起った出来事だという事に、注意してもらいたいんだよ。だいたい犯罪と云うものは、動機からのみ発するものではない。ことに、智的殺人犯罪は、歪んだ内観から動かされる場合が多いのだ。無論そうなると、一種淫虐性の形式だが……往々感情以外にも、何かの感覚的錯覚から解放されず、しかも、絶えず抑圧を続けられる場合に発する例しがあるのだ。ちょうど黒死館の城砦めいた陰鬱な建物に、僕はそういう、非道徳的な――むしろ悪魔的な性能を、すこぶる豊富に認めることが出来るのだよ。ところで、その厳粛な顔をした悪戯者が、だいたいどういう具合に人間神経の排列を変形させてゆくものだろうか、ここにちょうど恰好な例があるのだがね」と、その奇矯な推論から、独断に見える衣を脱がせようとして、彼はまず例証を挙げた。「これは今世紀の初め、ゲッチンゲンに起った出来事なんだが、オット・ブレーメルという、いかにもウエストファリア人らしい鋭感的な少年が、同地にあるドミニク僧団の附属学園に入学したのだ。ところが、そのボネーベ式の拱貫が低く垂れ、暗く圧し迫るような建物が、たちまち破瓜期の脆弱な神経を蝕んでいったのだ。