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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

曰く、ベルトルト・ヴァルスタイン伯、フルダ公兼大修院長パッヘンハイム……

そこまで来ると、熊城は顔でも殴られたかのようにハッと身を引いた。そして、容易に声が出なかった。検事はしばらく凝然と動かなかったが、やがてほとんど聴取れないほど低い声で、次句を読みはじめた。

「デイトリヒシュタイン公ダンネベルグ、アマルティ公領司令官セレナ、ああ、フライベルヒの法官レヴェズ……」とグッと唾を嚥み込んで、濁った眼を法水に向けた。「とにかく法水君、君が持ち出した、この妖精園の光景を説明してくれ給え。どうも、配役の意味がさっぱり嚥み込めんのだよ――何故リュッツェン役を筋書にして、黒死館の虐殺史が起らねばならなかったのだろうか。それに、あるいは杞憂にすぎんかもしれんがね。僕はここに名を載せられていない旗太郎と、クリヴォフとそのどっちかのうちに、犯人の署名があるのではないかと思うのだよ」

「うん、それがすこぶる悪魔的な冗談なんだ。考えれば考えるほど、慄然となってくる。第一、この大芝居を仕組んだ作者というのは、けっして犯人自身ではないのだ。つまりその筋書が、あの五芒星呪文の本体なんだよ。