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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

しかし、検事は未だに半信半疑の面持で、莨を口から放したまま茫然と法水の顔を瞶めている。それに法水は、皮肉に微笑みながらも、ハートの史本を繰りその頁を検事に突き付けた。

(グスタフス王の歿後、ワイマール侯ウイルヘルムの先鋒銃兵ホイエルスヴェルダに現われるに及び、初めて彼が、シレジアに野心ある事明らかとなれり)

「ねえ支倉君、ワイマール侯ウイルヘルムは、その実皮肉な嘲笑的な怪物だったのだよ。しかし、さしもクリヴォフが築き上げた墻壁すらも、僕の破城槌にとれば、けっして難攻不落のものではないのだ」と背後にある大火図の黒煙を、赫っと焔のように染めている、陽の反映を頭上に浴びながら、法水は犯人クリヴォフを俎上に上せて、寸断的な解釈を試みた。

「最初に僕は、クリヴォフを土俗人種学的に観察してみたのだ。勿論イスラエル・コーヘンやチェンバレンの著述を持ち出さなくても、あの赤毛や雀斑、それに鼻梁の形状などが、それぞれアモレアン猶太人(最も欧羅巴(ヨーロッパ)人に近い猶太人の標型)の特徴を明白に指摘しているものだと云える。しかしそれを、より以上確実にしているのが、猶太人特有ともいう猶太王国恢復の信条なんだ。