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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
まさに、ダンネベルグ夫人――易介と続いた、血みどろの童話風景である。あの底知れぬ妖術のような魔力を駆使して、犯人はこの日にもまた、クリヴォフ夫人を操人形のように弄んだ。そして、相変らず五彩絢爛とした、超理法超官能の神話劇を打ったのであった。恐らくその光景は、クリヴォフ夫人の赤毛が陽に煽られて、それがクルクル廻転するところは、さながら焔の独楽のようにも思えたであろうし、また、怒ったゴルゴン(メドウーサら三姉妹)の頭髪を髣髴とさせるほどに、凄惨酷烈をきわめたものに違いなかった。そして、その時クリヴォフ夫人が、もし無我夢中の裡に窓框に片手を掛けなかったなら、あるいは、そのうちに矢筈が萎び鏃が抜けるかして、結局直下三丈の地上で粉砕されたかもしれなかったのである。しかし、悲鳴を聴きつけられて、クリヴォフ夫人はただちに引き上げられたけれども、頭髪はほとんど無残にも引き抜かれていて、おまけに毛根からの出血で、昏倒している彼女の顔は、一面に赭丹を流したよう素地を見ることが出来なかったそうであった。
その惨事が発生してから、わずか三十五分の後に、法水一行は黒死館に到着していた。