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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
何者かが妖怪的な潜入をして、あの赤毛の猶太婆の後頭部を狙った。そして、射損ずると同時に、その姿が掻き消えてしまった――と。勿論、その不可解きわまる侵入には、あの Behind stairs(大階段の裏)の一語が、一脈の希望を持たせるだろう。けれども、僕の予感が狂わない限りは、仮令現象的に解決してもだよ。今日の出来事を機縁として、この事件の目隠しが実に厚くなるだろうと思われるのだ。あの水煙――それを神秘的に云えば、水精が火精に代り、しかも射損じたのだ――と」
「また、妖精山風景かい。だがいったい、そんなことを本気で云うのかね」検事は莨の端をグイと噛んで、非難の矢を放った。法水は指先を神経的に動かして、窓框を叩きながら、
「そうだとも。あの愛すべき天邪鬼には、しだいに黙示図の啓示を無視してゆく傾向がある。つまり、黒死館殺人事件根元の教本さえ、玩弄してるんだぜ。ガリバルダは逆さになって殺さるべし――それは伸子の失神姿体に現われている。それから、眼を覆われて殺さるべきはずのクリヴォフが危なく宙に浮んで殺されるところだったのだ。その時、宙高くに上った驚駭噴泉の水煙が、眼に見えない手で導かれたのだよ。