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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

「法水さん、私、まさかとは思いますわ。ですけど、貴方はあの渡り鳥のいうことを、無論そのままお信じになっているのじゃございますまいね」

「渡り鳥※(感嘆符疑問符、1-8-78)」法水は奇異の眼をって、咄嗟に反問した。つい今し方、自分が虹の表象として吐いた言葉が、偶然かは知らぬが、鎮子によって繰り返されたからである。

「さよう、生き残った三人の渡り鳥のことですわ」そう吐き捨てるように云って、鎮子は凝然と法水の顔を正視した。「つまり、ああいう連中がどういう防衛的な策動に出ようと、津多子様は絶対に犯人ではございません――私はそれをあくまで主張したいのです。それにあの方は、今朝がたから起き上ってはいられますけど、まだ訊問に耐えるというほどには恢復しておられないのです。貴方なら、御存じでいらっしゃいましょう――抱水クロラールの過量がいったいどういう症状を起すものか。とうてい今日一日中では、あの貧血と視神の疲労から恢復することは困難なのでございます。いいえ私は、あの方にメアリー・スチュアート(十六世紀スコットランドにおける聖女のような女王。後に女王エリザベスのため断頭に処せらる――一五八七年二月八日)の運命がありそうに思われて……。