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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

「あるいはそれが、過敏神経の所産にすぎないかもしれませんが、しかしともあれ貴女は、算哲博士のことをハートの王様と云われましたね。無論それからは、異様に触れてくる空気を感じたのです。何故かと云うと、ちょうどそれと寸分違わぬ言葉を、僕は伸子さんの口からも聴いたからでした。恐らく、その暗合には、この事件最後の切札とする価値があるでしょう。これまで僕等が辿っていった、推理測定の正統を、根柢から覆してしまうほどの怪物かもしれないのですよ。ことに、貴女の場合は、それに黙劇じみた心理作用が伴ったので、それに力を得て、なおいっそう深く、貴女の心像を抉り抜くことが出来たのでした。ところで、維納新心理派に云わせると、それを徴候発作と云うのですが、目的のない無意識運動を続けている間は、最も意識下のものが現われ易い――言を換えて云えば、人に知らせたくない、自分の心の奥底に蔵っておきたいものが、何かの形で外面の表出の中に現われるか、それとも、そこに何か暗示的な衝動を与えられると、それに伴った聯想的な反応が、往々言語の中にも現われることがあると云うのです。その暗示的衝動と云うのはほかでもない、算哲のことを、僕がスペードの王様と云ったことなんですよ。