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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

ああたしか、あれはテレーズの人形が歩いているんだ……」

なるほど、検事の云うとおり、熊城が踏む重い靴音に交って、リリンリリンと幽かに顫えるような音が伝わってくる。無生物である人形の歩み――まさに、魂の底までも凍てつけるような驚愕だった。しかし、当然そうなると、人形の側にある何者かを想像しなくてはならない。そこで三人は、かつて覚えたことのない昂奮の絶頂にせり上げられてしまった。もはや躊躇する時機ではない――熊城が狂暴な風を起して、把手を引きちぎらんばかりに引いた時、その時なんと思ってか、法水が突如けたたましい爆笑を上げた。

「ハハハハ支倉君、実は君の云う海王星が、この壁の中にあるのだよ。だって、あの星は最初から既知数ではなかったのだからね。憶い出し給え、古代時計室にあった人形時計の扉に、いったい何という細刻が記されていたか。四百年の昔に、千々石清左衛門がフィリップ二世から拝領したという梯状琴は、その後所在を誰一人知る者がなかったのだよ。たぶんあの音は、截たれた絃が、震動で顫え鳴ったのだろう――。最初は、重い人形が隣室の壁際を歩んだ。そして、次は今の熊城君だ。