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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
電鈴が壊れていたので、召使の室へ花瓶の後始末を頼みに行っていたものですから。ところが、戻ってまいりますと、ダンネベルグ様が寝室の中にいらっしゃるではございませんか」
「そうすると、以前から帷幕の蔭にいたのを、知らなかったのでは」
「いいえ、たぶん私を探しに、寝室の中へお入りになったのだろうと思いますわ。その証拠には、あの方の姿が、帷幕の隙間からチラと見えた時には、そこから少し右肩をお出しになっていて、そのままの形でしばらく立っていらっしゃったのですから。そのうち側の椅子を引き寄せになって、やはりその、二つの帷幕の中間の所へお掛けになりました。ねえいかが法水さん、私の陳述の中には、どの一つだって、算哲様をはじめ黒死館の精霊主義が現われてはおりませんでしょう――だって、正直は最上の術策なりと申しますもの」
「ありがとう。もうこれ以上、貴女にお訊ねすることはありません。しかし、一言御注意しておきますが、仮令この事件の動機が、館の遺産にあるにしてもですよ、御自分の防衛ということには、充分御注意なさった方がいいと思います。ことに、家族の人達とは、あまり繁々と接近なさらないように――。