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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

そのグローマン風に分けた長い銀色をした頭髪の下には、狂暴な光に燃えて紅いを凝然と瞶めている二つの眼があった。いつもなら、あの憂鬱な厭世家めいたレヴェズ――いまその全身を、かつて見るを得なかった激情的なものが覆い包んでいる。彼は絶えず、小びんの毛を掻き毟っては荒い吐息をつき、また、それにつれて刻み畳まれた皺が、ひくひくと顔一面に引っ痙れくねってゆくのだった。その妖怪めいた醜さ――とうていそのような頭蓋骨の下には、平静とか調和とか云うものが、存し得よう道理はないのである。たしか、レヴェズの心中には、何か一つの狂的な憑着があるに相違ない。そして、それがこの中老紳士を、さながら獣のように喘ぎ狂わせているらしく思われるのだった。

しかし、法水を見ると、その眼から懊悩の影が消えて、レヴェズは朦朧と山のように立ち上った。その変化には、まるで、別個のレヴェズが現われたのではないか――と思われたほどに鮮かなものがあった。また、態度にも意外とか嫌悪とか云うものがなくて、相変らず白っぽい霞のかかったような、それでいて、その顔の見えない方の側には、悪狡い片眼でも動いていそうな……という、いつも見る茫漠とした薄気味悪さで、またそれには、法水の無作法を責めるような、峻厳な素振もないのであった。