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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
しかし、僕はその前提として、一言、算哲の生存と地精との関係――に触れなければならないのです。いかにも、その魔法的効果に至っては、絶大なものに違いありますまい。ですがレヴェズさん、結局、僕はそれが比例の問題ではないかと思うのですよ。貴方は、たぶんその符合を無限記号のように解釈して、永劫悪霊の棲む涙の谷――とくらいに、この事件を信じておられるでしょう。けれども、僕はそれとは反対に、すでに善良な護神――グレートヘンの手が、ファウスト博士に差し伸べられているのを知っているのです。では、何故かと云いますと、だいたいあの悪鬼の犠牲とならなかった人物が、もうあと何人残っていると思いますね。ですから、あれほどの知性と洞察力を具えている犯人なら、当然ここで、犯行の継続に危険を感じなければならぬ道理でしょう。いや、そればかりではないのですよ。もう犯人にとっては、この上屍体の数を重ねてゆかねばならぬ理由はないのです。つまり、クリヴォフ夫人の狙撃を最後にして、あの屍体蒐集癖が、綺麗さっぱり消滅してしまったからなんですよ。さて、ここでレヴェズさん、僕の採集した心理標本を、一つお目にかけることにしましょう。