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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
しかし、あの火術弩の弦が木なら、僕は前史植物学で、今世紀最大の発見をしたことになるのだよ。ねえ熊城君、一七五三年にベーリング島の附近で、海牛の最後の種類が屠殺されたんだ。だがあの寒帯植物は、すでにそれ以前に死滅しているんだぜ。やはり、あの弩の弦は、いっこう変哲もない大麻で作られたものなんだ。ハハハハ、あの象のような鈍重な柱体を、僕は錐体にしてやったんだよ。つまり、レヴェズを新しい坐標にして、この難事件に最後の展開を試みようとするんだ」
「ああ、気が狂ったのか。君はレヴェズを生餌にして、ファウスト博士を引き出そうとするのか」とさしも沈着な検事も仰天して、飛び掛らんばかりの気配を見せると、法水はちょっと残忍そうな微笑をして答えた。
「なるほど、道徳世界の守護神――支倉君! だが実を云うと、僕がレヴェズについて最も懼れているのは、けっしてファウスト博士の爪ではないのだ。実は、あの男の自殺の心理なんだよ。レヴェズは最後に、こういう文句を云ったのだよ。儂の血でこの裁きをしたら、いつかその舌の根から聴くことがあるでしょうから――とね。それが、いかにもレヴェズが演ずる、悲壮な時代史劇のようで、またあの性格俳優の見せ場らしい、大芝居みたいにも思われるだろう。