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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
入口には、いかにも前史的なヤニ羊歯が二基あって、その大きな垂葉を潜って凝固土の上に下りると、前面には、熱帯植物特有の――たっぷり樹液でも含んでいそうな青黒い葉が、重たそうに繁り冠さり合い、その葉陰の所々に、臙脂や藤紫の斑が点綴されていた。しかし、間もなく灯の中へ、ちょっと馬蓼に似た、見なれない形の葉が現われて、それを法水はヤポランジイだと云った。ところが、調査の結果は、はたして彼の云うがごとく、その茎には六個所ほど、最近に葉をもぎ取ったらしい疵跡が残されていた。すると、法水は眉間を狭めて、みるみるその顔に危惧の色が波打ってきた。
「ねえ、支倉君、六引く一は五だろう。その五には毒殺的効果があるのだよ。しかし、いまの伸子の場合には、六枚の葉全部が必要ではなかったのだ。つまり、十分〇・〇一くらいを含んでいる一枚だけで、あの程度の発汗と発音の不正確を起すことが出来るのだからね。すると、犯人がまだ握っているはずの五枚――。その残りに、僕は犯人の戦闘状態を見たような気がするのだよ」
「ああ、なんという怖ろしい奴だろう」と神経的な瞬きをして、熊城もこころもち顫えを帯びた声で云った。