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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
が、その直後、把手に腕を衝突させるのが狡策であって、そうすると氷の先が折れて、稜片の胴が、熱のある接触板の一つに触れる。したがって、そうして溶解した氷の蒸気が陶器台の上に水滴を作れば、当然そこに電障が起らねばならない。しかも、溶解した氷は、そのまま消失してしまうのである。すなわち、この場合開閉器の側を過ぎる際に、もしその狡策を津多子が行ったとしたら、当然消燈は、彼女が座席についた頃に実現されるであろう。そして、その時間の隔りによって、ゆうに暗影の一隅を覆うことが出来るのである。
押鐘津多子――あの大正中期の大女優は、それ以外のどんな鎖の輪にも、姿を現わさないにもせよ、すでに事件最初の夜、古代時計室の鉄扉を内部から押し開いていて、ダンネベルグ事件に拭うべからざる影を印しているのである。しかも、事件中人物の中で最も濃厚な動機を持ち、現に彼女は、最前列の座席を占めていたではないか。こうして、幾つかの因子を排列しているうちに、法水は噴っと血腥いような矢叫びを、自分の呼吸の中に感じたのであった。しかし、召使に燭台を用意させて、開閉器の側に近づいてみると、そこに思いがけない発見があった。