轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

と云うのは、開閉器の直下に当る床の上に、和装の津多子以外にはない、羽織紐の環が一つ落ちていたからだった。

「夫人、この羽織紐の環は、ひとまずお返ししておきましょう。しかし、たぶん貴女なら、この開閉器を捻ったのが誰だか――御存じのはずですがね」とまず津多子を喚んで、法水はこう速急に切りだした。けれども、相手はいっこうに動じた気色もなく、むしろ冷笑を含んで、津多子は云い返した。

「お返し下さるなら、頂いておきますわ。ですけれど法水さん、やっとこれで、善行悪報の神の存在が私に判りましたわ。何故かと申しますなら、暗闇の中から呻吟の声が洩れた瞬間に、私の頭へこのスイッチの事が閃いたのでした。もし、人手を借らず把手が捻れるものでしたら、必ずこの蓋の内部に、何か陰険な仕掛が秘められていなければなりません。また、それがもし事実だとすれば、恐らく闇を幸いに、犯人がその仕掛を取り戻しに来るだろうと思いました。そう考えると、それまでは思いもよらなかった決意が浮んでまいりまして、そこで私、逸早く座席を外して、この場所にまいったのでございます。そして、自分の背でこの開閉器を覆うていて、いま貴方がお見えになるまで、ずうっとこの場所に立っていたのでございました。