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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

「オヤオヤ支倉君、君は津多子の故智を忘れたのかね。では試しに、屍室の扉を開かずにおこうか。そうしたらきっとあの男は、僕等の帰った頃を見計って、横廊下に当る聖趾窓から抜け出すだろう。そして、大洋琴の中にでも潜り込んで、それから催眠剤を嚥むに違いないのだよ。サア行こう。今度こそ、あの小仏小平の戸板を叩き破ってやるんだ」

こうして、法水はついに凱歌を挙げ、やがて、中室の奥――聖パトリックの讃詩を刻んである屍室の扉の前に立った。彼等三人には、すでにレヴェズを檻の中に発見したような心持がして、その残忍な反応を思う存分貪り喰いたいのだった。ところが、恐らく内部から鎖されていて、武具室にある、破城槌の力でも借りなければ――と信じられていたその扉が、意外にも、熊城の掌を載せたまま、すうっと後退りしたのだった。内部は、湿っぽい密閉された室特有の闇で、そこからは、濁りきっていて妙に埃っぽい、咽喉を擽るような空気が流れ出てくるのだ。そして、懐中電燈の円い光の中には、はたせるかな、数条の新しい靴跡が現われ出たのだった。その瞬間、闇の彼方にレヴェズの烱々たる眼光が現われ、彼が喘ぎ凝らす、野獣のような息吹が聴えてきた――と思われたのは、彼等の彩塵が描き出した幻だったのだ。