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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

「人形の観賞は、いずれゆっくりやってもらうことにしてだ」と熊城は苦々しげに顔を顰めたが、「それより法水君、鍵が内側から掛っているんだぜ」

「ウン驚くべきじゃないか。しかし、まさかに犯人の意志で、この人形が遠感的に動いたという訳じゃあるまい」鍵穴に突き込まれている飾付の鍵を見て、検事は慄然としたらしかったが、足許から始めて、床の足型を追いはじめた。跡方もなく入り乱れている、扉口から正面の窓際にかけての床には、大きな扁平な足型で、二回往復した四条の跡が印されていて、それ以外には、扉口から現在人形のいる場所に続いている一条のみだった。しかし、何より驚かされたのは、肝腎の人間のものがないということだった。検事が頓狂な声をあげると、それを、法水は皮肉に嗤い返して、

「どうも頼りないね。最初犯人が人形の歩幅どおりに歩いて、その上を後で人形に踏ませる。そうしたら、自分の足跡を消してしまうことが出来るじゃないか。そして、それから以後の出入は、その足型の上を踏んで歩くのだ。しかし、昨夜この人形のいた最初の位置が、もし扉口でなかったとしたら、昨夜はこの室から、一歩も外へ出なかったと云うことが出来るのだよ」