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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
それに、熊城が言葉を挾んで、「そうすると君は、その後に、この廊下を通らなかったのかい」
「はい、間もなく二番目が始まりましたので。御承知のとおり、この廊下には絨毯が敷いてございませんので、音が立ちますものですから、演奏中は表廊下を通ることになっておりますので」とレヴェズの不可解な行動を一つ残して、庄十郎の陳述はそれで終った。ところが、終りに彼は、ふと思い出したような云い方をして、「ああそうそう、本庁の外事課員と仰言る方が、広間でお待ちかねのようでございますが」
それから、殯室を出て広間に行くと、そこには、外事課員の一人が、熊城の部下と連れ立って待っていた。勿論その一つは、黒死館の建築技師――ディグスビイの生死いかんに関する報告だった。しかし、警視庁の依頼によって、蘭貢の警察当局が、たぶん古い文書までも漁ってくれたのであろう。その返電には、ディグスビイが投身した当時の顛末が、かなり詳細にわたって記されてあった。それを概述すると、――一八八八年六月十七日払暁五時、波斯女帝号の甲板から投身した一人の船客があった。そして、たぶん首は、推進機に切断されたのであろうが、胴体のみはその三時間後に、同市を去る二マイルの海浜に漂着した。