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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
そうなって、ファウスト博士の暗躍が明らかにされると同時に、そのいっこう単純な局面にもかかわらず、さしも法水でさえ、傍観する以外に術はなかった。勿論拳銃に指紋の残っていよう道理はなく、家族の動静も、当時の状況が状況だけにいっさい不明なのだった。そして、恐らく法水との約束を果そうとしたことが、事件中一貫して、不運を続け来ったこの薄倖の処女に、最後の悲劇をもたらせたのではないかと推測されたのである。
こうして、最後の切札伸子までも斃れてしまい、悪魔の不敵な跳躍につれて、おどろとはね狂う潮の高まりには、ついに解決の希望が没し去ったとしか思われなくなった。ところが、その夜から翌日の正午頃までにかけて、法水は彼特有の――脳漿が涸れ尽すと思われるばかりの思索を続けたが、はしなくもその結果、伸子の死に一つの逆説的効果を見出した。その日、昼食が終って間もなく、法水を訪ねた検事と熊城が書室の扉を開いた時、突然その出会いがしらに、法水の凄じい眼光に打衝った。彼は、両手を荒々しく振って、室内を歩き廻りながら、物狂わしげに叫び続けている。
「ああ、このお伽噺的建築はどうだ――。