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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

勿論それは、新旧両教徒の葛藤が生んだ、示威的な奸策にすぎないだろう。けれども、それが地理的に接近しているのは、ちょうどその中心に、主産地であるエルツ山塊があるためにほかならないのだ。しかし、要するに、あの千古の神秘は、一場の理化学的瑣戯にすぎないのだよ。ところで支倉君、君は砒食人という言葉の意味を知っているだろうね。ことに、中世の修道僧が多く制慾剤として砒石を用いていたことは、ローレル媚薬(ローレル油に極微の青酸を加えたもの。痙攣を発して一種異様な幻覚を起す自涜剤)などとともに著名な話なんだ。ところが、ロダンの『接吻』の中から、僕がいま発見した内容にも記されているとおりで、ダンネベルグ夫人もやはり砒食人――常日頃神経病の治療剤として、夫人は微量の砒石を常用していたのだ。そうすると、永い間には、組織の中にまでも、砒石の無機成分が浸透してしまう。したがって、サントニンによって浮腫や発汗が皮膚面に起ると、当然、そこに凝集している砒石の成分層が、ピッチブレンドのウラニウム放射能をうけなければならないだろう」

「勿論現象的には、それで十分説明がつくだろうがね。