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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

やがて検事は、夢から醒めたような顔になって訊ねた。

「なるほど、当然自分が当主でありながら、今さらどうにもならない――それが因で、伸子を残忍な欲求の母たらしめた。あの嗜血癖の起因は、僕にもようく判るんだ。しかし、犯行のつどに、恐らく人間の世界を超絶しているとしか思われない、怪異美と大観とを作り出したのは――。法水君、それを心理学的に説明してくれ給え」

「それは、一口に云えば遊戯的感情――一種の生理的洗滌さ。人間には、抑圧された感情や乾ききった情緒を充すものとして、何か一つの生理的洗滌が要求される。ねえ支倉君、ザベリクス(若きファウストと呼ばれ、十六世紀の前半、独乙国内を流浪した妖術師)やディーツのファウスチヌス僧正などが精霊主義に堕ち込んだと云うのも……。すべて、人間が力尽き反噬する方法を失ってしまった際には、その激情を緩解するものが、精霊主義だと云うじゃないか。それにあの畸狂変態の世界を作り出した種々な手法には、さしずめ、書庫にあるグイド・ボナットー(十三世紀伊太利のファウストと云われた魔術師)の『点火術要論』やヴァザリの『祭礼師と謝肉祭装置』などの影響が窺われるね。