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こくてん

黒点

豊島 与志雄

――或る青年の「回想記」の一節――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页

青空文庫

尋ねているらしかった。それがしまいには、わきから聞いてると不思議なほど執拗くなっていった。お清と男との間柄ばかりでなく、お清の周囲のことから日常の振舞まで、根掘り葉掘り問い訊していた。私には誰の顔も見えなかったが、その時の父の眼付は、いつぞや学校の帰りに出逢ったあの男の眼付と同じようだろうと、そんな風に思われるのだった。

姉はとうとう腹を立てたらしかった。

「どうするの、そんなことまで聞いて。あたしはお清ちゃんの番人じゃないよ。」

暫く話声が途切れると、父は云い訳でもするように口籠っていた。

「なあに……よく聞いておかなくっちゃあ、安心がならねえからな。……すると、じゃあ何だね……。」

そしてまた父は訊問を続けていった。

「知らないよ、もう……。お清ちゃんにじかに聞くがいいわ。」

姉は本当に怒りだしたようだった。父もそれきり口を噤んだ。

その時になって気付いたことなんだが、父と姉とがお清のことを話してる間、母は殆んど一言も口を利かなかった。それも私に変な感じを与えた。そして、父の執拗な問いと母の沈黙とが、冬の夜更のひっそりした寒さの中で、私の幼い頭に絡みついてきた。