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あのかお

あの顔

大倉 燁子

「ロック 三巻六号」1948(昭和23)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,009 字 · 22 页

青空文庫

博士はうなずいて、

「無意識のうちに殺したという、あの事件ですか?」

「私、その事で先生にお縋りに上ったんですの」

「すると、あの青年は?」

「私の従弟ですの」

「なるほど、あなたの旧姓と同じですね、秋田弘とか云いましたね」

「父の弟の息子です。秀才だったのですが、大学を出る一年前に応召して、戦争に行ってからすっかり人間が変ってしまいました。終戦と同時に帰還しましたが、もう大学へかえる気持ちもなく、それかと云って就職もせず、働く気もないという風で、前途に希望を全く失ってしまい、毎日ただぶらぶらと遊んでその日その日を送っているというようなので、親も段々愛想をつかし、最近では小遣銭にも不自由しておりましてね、度々私のところへ無心を云いに来るようになりました」

「ちょいと待って下さい」

博士はベルを鳴らして、夫人に今朝の新聞を持って来させ、もう一度その記事に眼を通してから、びっくりしたように、

「殺人はあなたの家で行われたんですか?」

「そうなんです」

「ふうむ」

彼は始めてこの訪問の容易ならぬことを知ったのだった。

「して、その赤ン坊は?」

「私の子なんですの」

「えッ? あなたのお子さんが殺されたんだと仰しゃるんですか?」