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あるおんせんのゆらい

ある温泉の由来

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1936(昭和11)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,655 字 · 30 页

青空文庫

妹に婿養子を貰って後を立てるようにとアメリカから言って来ている。こういう次第で嫁には差上げられないから悪しからずという断りだった。

僕がその通りを伝えたら、早川君は養子一向苦しからず、何分頼むと乗り出した。迷っているから仕方がない。小糠三合ということがある。況して西引佐切っての早川家の息子だ。

「君、何んなものだろうね?」

「何が?」

「単に器量が好いからって、遮二無二に養子に行くことさ」

「頭も此方より好いんだ」

「此方より頭の好いところへ行ったんじゃ尻に敷かれるばかりだぜ」

「それこそ素より望むところだ」

「馬鹿だな」

「君は妨害するのか?」

と早川君は食いつきそうな顔になった。

度し難い。僕は又親父に頼んだ。竹子さんが早川君に興味を持っていることが明白になった。早川さんの三男が養子に来てくれるなら願ったり叶ったりだという返事だったが、早川さんの一家が承知しない。両親兄貴達、皆反対だった。早川君は煩悶し始めた。銀行の仕事が手につかない。西引佐へ毎晩のように出掛けて早川君の兄貴達と折衝を重ねたのは僕だ。紆余曲折は抜きにする。早川君は願いが叶って、荒神風呂の中島屋へ婿養子に来た。