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あるおんせんのゆらい

ある温泉の由来

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1936(昭和11)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,655 字 · 30 页

青空文庫

「何しろ此方は真物が二柱だから御利益が灼かだ。見ると目が潰れる」

とお互に言っている。何方も信仰だ。穿鑿を必要としない。

西と東の反目を助長するものに宮相撲がある。東の八幡様は七月が大祭、西の八幡様は八月が大祭だ。その折、東西の力士が土俵の上で顔を合せる。名物になっているから、近村は無論のこと、○○町からも見物が出る。平素心掛けている丈けに、手取りが多い。西には東京へ修業に行って、褌かつぎになったのがある。七月八月とお祭りが重なるから、何方が負けても、直ぐ後に雪辱の機会が待っている次第だ。しかし二度続けて負けると頭が上らない。町で会っても、野良で会っても、

「おい。東の若いの、お前達は鍛冶屋へ行って、腰へ些っと筋を入れて貰っちゃ何うだ?」

と思い知らされる。

東引佐のものに取って都合の悪いのは、○○町へ行くのに西引佐を通らなければならないことだ。お祭りの直後は殊に気が立っていていけない。勝って威張るくらいのものは負けると焼けっ肚になる。

「やい。東引佐、稀に勝ったと思って、巨い面をして歩くな」

と喧嘩を売りかける。○○町は人口一万足らずだけれど、その界隈唯一の大都会だ。