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いなか、の、じけん
いなか、の、じけん
夢野 久作
「探偵趣味」「猟奇」1927(昭和2)年7月~1930(昭和5)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,535 字 · 78 页
「知らんがナ……」
と云い云いふり仰ぐお八重の笑顔は、女神のように美しく無邪気であった。
親爺は困惑した顔になった。そこいらをオドオド見まわしては新らしいラムプの光りと、娘の膨れた腹とを、さも恨めしげに何遍も何遍も見比べた。
「オラ知っとる……」「ヒッヒッヒッヒッ」
という小さな笑い声がその時に入口の方から聞えた。
その声が耳に這入ったかして、元五郎親爺はサッと血相をかえた。素裸体のまま曲った足を突張って、一足飛びに入口の近くまで来た。それと同時に、
「ワ――ッ」「逃げろッ」
という声が一時に浴場のまわりから起って、ガヤガヤガヤと笑いながら、八方に散った。そのあとから薪割用の古鉈を提げた元五郎親爺が、跛引き引き駆け出したが、これも森の中の闇に吸い込まれて、足音一つ聞こえなくなった。
その翌る朝の事。元五郎親爺は素裸体に、鉈をしっかりと掴んだままの死体になって、鎮守さまのうしろの井戸から引き上げられた。又娘のお八重は、そんな騒ぎをちっとも知らずに廃屋の台所の板張りの上でグーグー睡っていたが、親爺の死体が担ぎ込まれても起き上る力も無いようす……そのうちにそこいらが変に臭いので、よく調べてみると、お八重は叱るものが居なくなったせいか、昨夜の残りの冷飯の全部と、糠味噌の中の大根や菜っ葉を、糠だらけのまま残らず平らげ