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おかよ

おかよ

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1942(昭和17)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,116 字 · 19 页

青空文庫

……島原の乱が鎮まった年の秋のある日、その茶店のなかの一軒で、店の女がふたり、客のない午さがりの一刻を、さっきからしずかに話し耽っていた。

「それにしても」と年嵩の女のほうが眼をあげて、「その娘はどうしたの、話の順から云えばそのお侍と夫婦にならなければならない、ねえ、そうなったんでしょう」

「……いいえ」若いほうの女はそっと頭を振った、「そのかたが江戸へお帰りになるとすぐ、娘はゆきがた知れずになりましたわ」

「どうしてさ」

「娘は掛け茶屋の女でしょう、その方はもう三百石のお武家さまですもの、身分がちがいます」

「身分が違うっておかよさん、そうなるまでの事を思えば違うもへちまもないじゃないか、それにお互いに好き合って、ほぞの緒まで着けてやるほどでいて、それじゃ相手のかたが出世したってなんにもならないじゃないの」

「そんなことないわ、その娘はそれで満足していたんですもの」

「わからない、あたしにゃわからないよ」

「……女というものは」と若いほうが呟くような声でいった、「自分の一生を捧げた人のためにいちどだけでも本当に役立つことができれば、それで満足できるものだとあたしは思います、……その娘は、自分が三百石の奥さまになれないことを知っていたんです、そうしてはそれから先その方の邪魔になると考えたんです、あたしにはその娘の気持が