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おかよ
おかよ
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1942(昭和17)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,116 字 · 19 页
三
と突っこんで来た、それで城兵の射撃は、そっちへ集中された。弥次郎はしゃに無二登って、正面矢狭間へと片手をかけた。
「あっ、敵だ」という叫びとともに、中から賊徒の一人が身を乗りだした。弥次郎は片手で刀を抜き、その男の胸を力まかせに刺した。そして相手の胸倉をつかむとそれを手繰るようにして矢狭間の框へ自分の身をのしあげた。だあん! という銃火が目前で火花をとばした。弥次郎は烈しい衝撃を胸に感じたが、それには屈せずいま刺した敵の体を抱え、おのれの身とともにぴったりと矢狭間を塞いだ。
「やった、おれは正面矢狭間を塞いだぞ」
そう思ったのがさいごだった。だんだん! と耳を劈くような銃声を聞き、またしても胸を殴られたように感じながら、弥次郎の意識は朦朧と薄れていった。
三
「すばらしい奇智だ、味方の我々でさえてっきり弾丸にやられたと思ったもの、敵が欺かれたのはむりもないさ」「それもそうだが、矢狭間を自分の体で塞ぐというのは戦記にもないだろう」「あれが勝ち目だった」「そうだ、あれで後詰めが突っこめたんだから」
弥次郎は、うとうとしながら聞いていた。――ああ勝ったのだな。