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おかよ

おかよ

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1942(昭和17)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,116 字 · 19 页

青空文庫

二

茶店はしまったあとで、新銭座の裏に家があるというのをたよりに、そのあたりを及ぶ限りたずねあるいた。――ひと眼だけ会いたい、一言だけ礼を云ってゆきたい。みんな親類縁者たちに行の壮んを祝って貰うなかで、弥次郎を祝って呉れるのはおかよひとりだった、武運長久を祈る守り札を呉れたのもおかよだけだった、生きて還るつもりのない彼はどうかしてひとめ会い、ひと言わかれの言葉を交わしたかったのである。だがついに会うことはできなかった。そのときおかよは、采女ヶ原のあたりで同じように、弥次郎の姿を求めあるいていたのであった。

二

午前三時、天地はまだ暗かった。

弥次郎は空を仰いだ、満天の星だった。しずかな東南の風が枯草をわたり、明けがたの寒気が小具足の隙間から身にしみとおった。どこか遠くで馬の嘶くこえがしたあとは、闃としてなんの物音もしない。

「もう合図がありそうなものだ」

横のほうで誰かが云った。

――七兵衛どのだな。

そう思いながら、弥次郎は無意識に槍を持ちなおした、心はすっかり落ちついていた。

島原攻略の合戦は、いま最後の段階に直面していた、伊豆守信綱はあらゆる戦法を用いて攻めた。