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おごそかなかわき

おごそかな渇き

山本 周五郎

「朝日新聞日曜版」 1967(昭和42)年1月8日~2月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,042 字 · 71 页

青空文庫

松山隆二が穏やかに云った、「ここは静かでいいですね」

「まだ自然だけは生きていますからね」と竹中は自嘲するように口を歪めた、「しかし人間となると東京よりひどい、狡猾で貪欲で無恥なこと、まして宗教的な偏見の根強さとなると、蒙昧そのものです、むしろ蒙昧であることにしがみついているようなものです」

「あなたは」と松山隆二がきいた、「――無宗教ですか」

「私は人間を信じます」と答えて竹中はあいまいに頬笑んだ、「いや、正しくいえば信じようとしたんです、そのために努力もしました、尤も私がそう思っただけかもしれない、努力していると自分で信じただけかもしれないが、結果は失望と裏切りをあじわっただけでした、――どんなに努力しても、ひとりの人間に与えられた力には、限度がありますからね」

「焦げるんじゃありませんか」と松山隆二は鍋を指さした、「焦げ臭いですよ」

「ああ」竹中はいそいで鍋の中の物を裏返した、「もうちょっとだな、これはよく焼かないと胃にもたれるんですよ」

「あなたは」と暫くまをおいて隆二がきいた、「りつ子さんもここでお育てになるつもりですか」

竹中は頭を左右に振った、「いや」