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おごそかなかわき
おごそかな渇き
山本 周五郎
「朝日新聞日曜版」 1967(昭和42)年1月8日~2月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,042 字 · 71 页
大きくは滅亡に向かって奔走しているようにしか思えない、きみはこれをどう考えますか」
「わかりません」隆二は考えぶかく答えた、「ただ人間には、自己保存本能がありますからみすみす破滅とわかっているのに」
竹中は手をあげて遮った、「ではなぜ第一次、第二次の戦争があったんだろう、歴史的にはいつも人間は殺しあって来た、それだけ破壊と殺人が行われて、なにか得るところがあったろうか、慥かに、疾病による死人のほうが、戦争による死者より多いかもしれない、しかし人為的な大量殺人、地球そのものが亡びるとしたら、それを防ぐなにかの知恵がはたらいていていい筈だ、けれども現在の状態ではとうていその可能性はない、――だからぼくは広い青空と、緑の見える野で死を待とうと思うんだ、きみにこの気持がわからないかね」
この人は逃げようとしている、現実に当面する気力がないだけだ、と松山隆二は思った。広い青空でも緑の野原でもない。そして水素爆弾にも関係はない、簡単にいえば疑心暗鬼にすぎない、ブラジルへいっても、北欧、南洋へいっても、おそらく心の安まることはないだろう、そう思ったけれども、むろん口にだしてはなにも云わなかった。