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おばなさわ

おばな沢

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,479 字 · 45 页

青空文庫

「どなたにも仰しゃらないでね、お母さま、またあの方に聞えると、むりをしておみまいにいらっしゃるから、お願いよ、お母さま」

節子は高い熱のなかで繰り返した。

「誰にも云うもんですか、わかってますよ、云う筈がないじゃないの」

母はこう約束した。もちろん他人に話すわけはないのだが、このあいだに英之助は二度もみまいに来たのである。親たちが会わせもせず、そう告げもしなかったので、節子はまるで知らなかった。

十二月のはじめ、すっかり熱がさがって、気分もよくなったとき、訪ねて来た英之助に会い、彼の話でそのことがわかったのである。

医者の注意で、面会は三十分と限られていたから、二人で話したのはほんの短い時間にすぎなかった。

「相良さまとは故障はございませんの」

節子は、まずいちばん気になることを聞いた。

「ええ、まあまあ、なんとかやってますよ」

「なにかいやなことがあったのではございませんの」

「あなたは病気をなおすことだけ考えて下さい、私の問題は私がやります、そんな心配は決してしないで下さい」

彼は涙ぐむような眼でこう云った。節子は彼のようすが違っているのを見た、いくらか痩せたようだし、顔色も冴えない。